いつからだろうか、シャンプーの時に手に絡まる抜け毛が増えたのは。そして、鏡を見るたびに、額の両サイドが少しずつ後退していることに気づいた。最初は気のせいだと思いたかった。髪型で隠せる範囲だったし、まだ大丈夫だと自分に言い聞かせていた。しかし、現実は残酷で、M字の切れ込みは日増しに深くなっていくように感じられた。インターネットで「M字はげ 治らない」という言葉を見つけては、ため息をつく毎日。育毛剤を試したり、頭皮マッサージをしたり、生活習慣を見直したり…思いつくことは色々とやってみたけれど、目に見える効果は感じられなかった。むしろ、焦れば焦るほど、抜け毛が増えているような気さえした。友人との集まりや、人前に出るのが次第に億劫になっていった。人の視線が自分の額に集まっているのではないかと、常にビクビクしていた。自信を失い、何事にも消極的になっていく自分が嫌だった。「もう治らないんだ」という諦めの気持ちが心を支配し始めていた頃、同じ悩みを抱えていた友人が専門クリニックに通い始めたという話を聞いた。半信半疑だったが、藁にもすがる思いで、私もクリニックの門を叩いた。医師の診断はやはりAGA。そして、「完全に元通りは難しいかもしれないが、早期治療で進行は抑えられる可能性が高い」と言われた。治療を開始して数ヶ月。劇的な変化ではないけれど、抜け毛が減り、生え際に細い毛が生えてきたのが分かった。何より、「これ以上ひどくならないかもしれない」という安心感が、私の心を軽くしてくれた。今も治療は続けている。M字が完全に消えたわけではない。でも、以前のように鏡を見るのが辛くはない。進行が止まったこと、そして何より、悩みに正面から向き合い、行動できたことが、私に小さな自信を取り戻させてくれたのだと思う。「治らない」と塞ぎ込んでいた過去の自分に、少しだけ胸を張れる気がしている。
7月17