M字部分の薄毛、いわゆるM字はげが「治らない」「改善しにくい」と言われるのには、生物学的な理由があります。その背景にあるのは、AGA(男性型脱毛症)のメカニズムと、毛髪が生え変わるサイクル(ヘアサイクル)の変化です。私たちの髪の毛は、「成長期」「退行期」「休止期」というサイクルを繰り返しています。通常、成長期は数年間続き、髪の毛が太く長く成長します。しかし、AGAを発症すると、男性ホルモンの一種であるDHT(ジヒドロテストステロン)の影響により、この成長期が極端に短縮されてしまいます。髪の毛が十分に成長する前に退行期・休止期へと移行し、細く短いまま抜け落ちてしまうのです。これが薄毛の直接的な原因となります。特に、額の生え際(M字部分)や頭頂部は、DHTの影響を受けやすいレセプター(受容体)が多く存在するため、AGAの症状が現れやすい部位とされています。このヘアサイクルの乱れが長期間続くと、髪の毛を作り出す組織である毛包(もうほう)そのものが徐々に小さく、弱々しくなっていきます。これを毛包の「ミニチュア化」と呼びます。ミニチュア化が進行し、毛包が完全にその機能を失ってしまうと、たとえDHTの影響を抑える治療を行ったとしても、そこから再び太く健康な髪の毛を生やすことは非常に困難になります。これが、M字はげが一度進行してしまうと改善が難しい、つまり「治らない」と言われる科学的な根拠の一つです。もちろん、毛包が完全に機能停止する前であれば、治療によってヘアサイクルを正常化させ、抜け毛を減らしたり、細くなった毛を太く育てたりすることは可能です。しかし、失われた毛包を再生させることは、現在の医学ではまだ難しいのが現状なのです。だからこそ、AGAの治療は、毛包がミニチュア化しきる前の早期段階で開始し、進行を食い止めることが何よりも重要になります。
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AGA治療中の脱毛は効果のサイン?初期脱毛との向き合い方
AGA治療を始めたのに抜け毛が増えると、多くの方が不安を感じ、「治療を続けるべきか迷ってしまう」という声をよく聞きます。しかし、この治療初期に見られる脱毛、いわゆる「初期脱毛」は、多くの場合、治療薬が効き始めているポジティブなサインと捉えることができます。なぜなら、初期脱毛は新しい健康な髪の毛が生えてくる準備段階で起こる現象だからです。AGAによって乱れたヘアサイクルが、治療薬の作用で正常化に向かう過程で、古い弱った髪の毛が新しい髪に押し出される形で抜け落ちます。このメカニズムを理解していれば、一時的な脱毛に過度に動揺することなく、治療を継続するモチベーションにつながるでしょう。とはいえ、実際に抜け毛が増えるのを目の当たりにすると、精神的な負担が大きいのも事実です。特に、治療効果への期待が大きいほど、そのギャップに戸惑うかもしれません。この時期を乗り越えるためには、まず「初期脱毛は一時的なものである」ということを強く認識しておくことが大切です。通常、1ヶ月から2ヶ月程度で脱毛は落ち着き、その後、徐々に新しい髪の毛の成長が期待できます。焦らず、根気強く治療を続けることが何よりも重要です。精神的な負担を軽減するためには、あまり神経質になりすぎないことも大切です。枕元の抜け毛の本数を毎日数えたり、鏡で細かくチェックしすぎたりすると、かえってストレスが増大してしまいます。リラックスを心がけ、趣味や仕事など、他のことに意識を向ける時間を作るのも良いでしょう。また、どうしても見た目が気になる場合は、帽子やヘアスタイルで一時的にカバーするなどの工夫も有効です。そして何より、不安な気持ちは一人で抱え込まず、処方を受けている医師に相談することが重要です。医師は初期脱毛について十分に理解しており、適切なアドバイスや精神的なサポートを提供してくれます。自己判断で治療を中断してしまう前に、必ず専門家の意見を聞くようにしましょう。