M字部分の薄毛、いわゆるM字はげが「治らない」「改善しにくい」と言われるのには、生物学的な理由があります。その背景にあるのは、AGA(男性型脱毛症)のメカニズムと、毛髪が生え変わるサイクル(ヘアサイクル)の変化です。私たちの髪の毛は、「成長期」「退行期」「休止期」というサイクルを繰り返しています。通常、成長期は数年間続き、髪の毛が太く長く成長します。しかし、AGAを発症すると、男性ホルモンの一種であるDHT(ジヒドロテストステロン)の影響により、この成長期が極端に短縮されてしまいます。髪の毛が十分に成長する前に退行期・休止期へと移行し、細く短いまま抜け落ちてしまうのです。これが薄毛の直接的な原因となります。特に、額の生え際(M字部分)や頭頂部は、DHTの影響を受けやすいレセプター(受容体)が多く存在するため、AGAの症状が現れやすい部位とされています。このヘアサイクルの乱れが長期間続くと、髪の毛を作り出す組織である毛包(もうほう)そのものが徐々に小さく、弱々しくなっていきます。これを毛包の「ミニチュア化」と呼びます。ミニチュア化が進行し、毛包が完全にその機能を失ってしまうと、たとえDHTの影響を抑える治療を行ったとしても、そこから再び太く健康な髪の毛を生やすことは非常に困難になります。これが、M字はげが一度進行してしまうと改善が難しい、つまり「治らない」と言われる科学的な根拠の一つです。もちろん、毛包が完全に機能停止する前であれば、治療によってヘアサイクルを正常化させ、抜け毛を減らしたり、細くなった毛を太く育てたりすることは可能です。しかし、失われた毛包を再生させることは、現在の医学ではまだ難しいのが現状なのです。だからこそ、AGAの治療は、毛包がミニチュア化しきる前の早期段階で開始し、進行を食い止めることが何よりも重要になります。
8月18