「今はAGAではない」と診断されても、それが将来にわたって保証されるわけではありません。残念ながら、年齢を重ねるにつれてAGAを発症するリスクは誰にでも存在します。特に、家族（父や母方の祖父など）に薄毛の人がいる場合、遺伝的な素因を持っている可能性があり、将来的にAGAを発症するリスクは比較的高くなると考えられます。AGAは、男性ホルモン（テストステロン）がDHT（ジヒドロテストステロン）へと変換され、そのDHTが毛乳頭細胞にある受容体と結合することで発症・進行します。このDHTへの感受性の高さや、DHTを生成する酵素（5αリダクターゼ）の活性度は、遺伝によって大きく左右されることが分かっています。つまり、現在はAGAの症状が現れていなくても、遺伝的な素因を持っていれば、加齢やホルモンバランスの変化などをきっかけに、将来的にAGAが顕在化してくる可能性は十分にあるのです。「AGAじゃない」という診断は、あくまで「現時点での診断」であると理解しておく必要があります。では、将来的な発症リスクに対して、何かできることはあるのでしょうか。現時点でAGAを発症していない以上、予防的にAGA治療薬（フィナステリドなど）を使用することは一般的ではありませんし、推奨もされません。しかし、リスクを少しでも低減するために、あるいは発症を遅らせるためにできることとして、やはり健康的な生活習慣を維持することが挙げられます。バランスの取れた食事、十分な睡眠、ストレス管理、禁煙などは、頭皮環境を良好に保ち、髪の毛の健康をサポートします。これらは直接的なAGA予防にはならないかもしれませんが、髪全体の健康状態を維持する上で重要です。そして、最も大切なのは、将来的に髪の状態に変化が見られた場合に、早期に気づき、再び専門医に相談することです。定期的に自分の髪の状態をチェックする習慣をつけ、「以前と違うな」と感じたら、早めに診察を受けることが、万が一AGAを発症した場合でも、早期治療につながり、良好な経過を得るための鍵となります。