仕事から帰宅すると、妻がリビングで生後十ヶ月の息子を抱きながら、その小さな口を真剣な面持ちで覗き込んでいる。僕の帰宅に気づくと、彼女は少し残念そうな顔で「今日もまだみたい」と呟いた。歯科矯正での話題の芦屋で口コミの歯医者の見つけては、ここ数ヶ月、我が家で繰り返されている日常の一コマだ。スマートフォンの育児記録アプリが示す「標準的な成長曲線」と、目の前の息子の現実との間に、妻は小さな不安を感じているようだった。 僕自身は、正直なところ、あまり心配していなかった。「男の子は成長がゆっくりなことが多いって言うし、個人差だよ」と、いつものように軽い口調で彼女をなだめる。しかし、一日中息子と向き合っている妻にとって、それは気休めにしかならないことも分かっていた。SNSを開けば、同じくらいの月齢の子どもたちが、下の歯をちょこんと覗かせた満面の笑みの写真で溢れている。彼女が焦りを感じるのも無理はない。こんなに大阪でも素行調査を行う探偵で僕にできるのは、そんな妻の不安をただただ肯定し、分担することだけだった。 ある土曜日の朝、僕が息子と床の上で寝転がって遊んでいた時のことだ。息子はご機嫌で僕の指を捕まえると、いつものように自分の口へと持っていき、歯茎でむにむにと感触を確かめ始めた。それはいつものことだったが、その瞬間、指先に今まで感じたことのない、硬くて鋭い感触が「カチリ」と当たったのだ。思わず「ん?」と声を上げ、息子の口元から指を抜いた。そして、もう一度、彼の小さな口の中をそっと覗き込んでみた。 そこには、確かに存在していた。下の歯茎の、ちょうど真ん中のあたりに、米粒の半分ほどの大きさの、白くて硬い何かが、ピンク色の粘膜を突き破って顔を出していたのだ。それはまるで、夜空に最初に瞬く一番星のようだった。僕は驚きのあまり数秒間固まった後、リビングの向こうで家事をしていた妻に、自分でも驚くほど大きな声で叫んでいた。「おい!生えたぞ!歯が生えてる!」。 僕の声に何事かと駆け寄ってきた妻は、半信半疑で息子の口を覗き込み、それを見つけると、次の瞬間には「本当だ…!」と声を詰まらせ、その目にみるみるうちに涙を浮かべた。その表情を見て、僕は改めて理解した。彼女が抱えていた不安が、どれほど大きなものだったのか。そして、この小さな歯の誕生が、僕たち夫婦にとって、どれほど大きな喜びであるのかを。二人で顔を見合わせて笑い、息子を真ん中にしてぎゅっと抱きしめた。 息子の成長は、これからもきっと、教科書通りにはいかないだろう。そのたびに僕たちは一喜一憂し、時には不安になることもあるかもしれない。でも、この日の感動があれば、きっと大丈夫だ。これから始まる歯磨きという新しいミッションも、夫婦で力を合わせて楽しんでいこう。パパが最初に見つけたこの小さな一番星は、僕たち家族にとって、何物にも代えがたい希望の光となった。