鏡を見るたびに深くなっていくM字の剃り込みに気づいたのは二十代の半ばでしたが当時はまだ若さにかまけてそのうち治るだろうと高を括っていました。しかし市販の育毛トニックを振りかけてもマッサージを念入りに行っても額の面積は広がる一方で三十代になる頃には前髪で隠すことすら難しくなり風が吹くたびに冷や汗をかくような日々が始まりました。私が経験したM字ハゲとの闘いはまさに敗北の連続でありネットで評判の良い高価なシャンプーを使ってもサプリメントを飲んでも産毛すら生えてこない現実に何度も絶望しました。皮膚科を受診してAGAという診断を受けた時はショックというよりもやはりそうだったのかという妙な納得感がありましたが医師からM字部分は特に治療効果が出にくい場所であり完全に元のラインまで戻すことは難しいと告げられた時の絶望感は今でも鮮明に覚えています。それから数年間は処方された薬を飲み続けましたが進行を遅らせることはできても失った生え際が復活することはなく毎朝鏡の前でため息をつく生活は変わりませんでした。しかしある時ふと街中で堂々と短髪にしている薄毛の男性を見かけた時に隠そうとするから惨めになるのではないかという思いが頭をよぎりそれまで固執していた長めの前髪を思い切って短くし額を出すスタイルに変えてみたのです。すると不思議なことに周囲の視線が気にならなくなり何よりも自分自身がM字ハゲであることを隠すストレスから解放されたことで気持ちが驚くほど軽くなりました。もちろん髪がフサフサに戻ったわけではなくM字ハゲ自体は治らないままですが私の心の中でそれはコンプレックスという重荷から単なる身体的特徴の一つへと変化しました。治らないものに執着して時間やお金を浪費するよりも今の自分を受け入れて堂々と生きる方が遥かに建設的であるという結論に至るまで十年という長い月日がかかりましたがその過程で得た精神的なタフさは決して無駄ではなかったと感じており今ではM字の額も自分の年輪の一部として愛せるようになっています。
治らないM字ハゲと向き合った私の十年記