私には、自分の歯の健康に対する、ささやかな自信がありました。三ヶ月に一度の歯科検診とクリーニングを欠かさず、フロスと歯間ブラシを使ったセルフケアも毎日真面目にこなす。こうしても人気の歯医者では大阪市にはそんな私にとって、一年以上付き合っている彼の口内環境は、唯一の悩みの種でした。彼は典型的な「歯医者嫌い」。冷たいものがしみる素振りを見せたり、時々奥歯のあたりを気にしたりしているのに、「大丈夫」の一点張りで、頑なに歯科医院へ行こうとしませんでした。 「大人同士なんだから、キスで虫歯菌がうつるなんて大したことないでしょ」。私はそう高をくくっていました。確かに、時々彼の口臭が気になることはありましたが、それも愛情でカバーできる範囲だと自分に言い聞かせていました。彼の健康は心配だけれど、無理強いはできない。もう芦屋で人気のホワイトニングを探しては、見て見ぬふりを続けていたのです。 その自信が、ある日もろくも崩れ去りました。いつものように定期検診に行くと、担当の歯科衛生士さんから「あれ、右下の奥歯、少し怪しいですね。小さな虫歯になりかけています」と告げられたのです。ショックでした。完璧だと思っていた私のケアに、一体どこに穴があったのか。混乱する私に、衛生士さんは優しく尋ねました。「最近、食生活で何か変わったことはありませんか?例えば、間食が増えたり、夜寝る前に何か食べたりとか…」。 その言葉に、私はハッとしました。彼と付き合い始めてから、私の生活リズムは確実に変わっていたのです。映画を見ながら、夜中に二人でポテトチップスをつまむ。仕事で疲れた彼を労って、甘いケーキを買って帰る。そうした「幸せな時間」が、私の口内環境を確実に蝕んでいたことに、私は全く気づいていませんでした。 衛生士さんは、私の表情の変化を読み取ったように、こう続けました。「大人同士でも、唾液を介して細菌の交換は起こります。でも、それ以上に影響が大きいのは、生活習慣の共有です。特に、パートナーの方のお口の中に虫歯菌がたくさんいる状態だと、ご自身の口内環境が悪化した時に、その影響を強く受けてしまうリスクがあるんですよ」。その説明は、まるでパズルの最後のピースがはまったかのように、私の腑に落ちました。問題は、単純に菌が「うつる」ことではなかったのです。彼の不摂生な食生活に私が付き合うことで、私の口の中の防御力が低下し、そこに彼の強力な虫歯菌がなだれ込んでくる。まさに、負の相乗効果でした。彼の虫歯を放置していたことは、巡り巡って、私自身の健康を危険に晒す行為だったのです。 その日の夜、私は彼に真剣に話をしました。「あなたのことが大切だからこそ、一緒に健康でいたい。私の健康のためにも、あなた自身の未来のためにも、お願いだから一緒に歯医者さんに行ってほしい」。最初は渋っていた彼も、私の涙ながらの訴えに、ようやく重い腰を上げてくれました。 それから私たちは、二人で同じ歯科医院に通っています。彼の治療にはまだ時間がかかりますが、以前のように夜中にスナック菓子を食べることはなくなり、食後には二人並んで歯を磨くようになりました。本当の愛情とは、相手の問題から目をそらすことではなく、手を取り合って共に解決していくことなのだと、この一件は教えてくれました。もしあなたのパートナーが歯の問題を抱えているなら、それはもはや、その人だけの問題ではないのかもしれません。