今回は、皮膚科専門医の立場から、ランニングなどの有酸素運動が薄毛対策としてどのように機能するのか、その医学的見地について解説していただきます。「『ランニングで薄毛が治った』という話を聞くと、医学的には慎重な見方をしますが、運動習慣が髪の健康にポジティブな影響を与えることは、間違いなく事実です」と、医師は語ります。まず、AGA(男性型脱毛症)や女性のびまん性脱毛症といった薄毛の多くは、遺伝的素因やホルモンバランスが根底にありますが、その進行を加速させる大きな要因として「血行不良」と「ストレス」が挙げられます。「髪の毛は、毛乳頭にある毛細血管から栄養を受け取って成長します。ランニングのような有酸素運動は、心肺機能を高め、全身の血液循環を改善する最も効果的な方法の一つです。これにより、頭皮への血流が増加し、毛母細胞に必要な栄養素が供給されやすくなる。これは、育毛剤に含まれるミノキシジルが血行促進作用を持つことからも、その重要性がお分かりいただけるでしょう」また、ストレスとの関係性も無視できません。「過度な精神的ストレスは、交感神経を優位にし、血管を収縮させて血行を悪化させます。ランニングは、ストレスホルモンであるコルチゾールの分泌を抑制し、精神を安定させるセロトニンなどの神経伝達物質の分泌を促します。この自律神経のバランスを整える作用が、間接的に頭皮環境を改善するのです」ただし、医師は注意点も指摘します。「ランニングはあくまで健康な髪を育むための『土台作り』です。すでに進行したAGAを、ランニングだけで元に戻すことは困難です。薄毛の原因がAGAである場合は、ランニングと並行して、フィナステリドなどの内服薬による医学的治療を行うことが、最も効果的で確実なアプローチとなります。ランニングを、治療効果を高めるための補助的な生活習慣と位置づけるのが、正しい理解と言えるでしょう。また、過度な運動はかえって体にストレスを与えるため、やりすぎは禁物です」健康的な運動習慣は、髪だけでなく全身の健康に寄与する、最も基本的なセルフケアなのです。