僕が自分の薄毛に深刻に悩み始めたのは、20代の終わり頃だった。朝、枕についた抜け毛の数に一喜一憂し、シャワーの排水溝を見るのが怖かった。友人との会話中も、相手の視線が自分の頭頂部に向いているような気がして、心から笑うことができなくなっていた。高価な育毛剤を試し、頭皮に良いとされるシャンプーに変えても、気休めにしかならない。鏡に映る自分を見るたびに、自信がどんどん削られていくのを感じていた。そんな僕の人生を変えたのが、一足のランニングシューズだった。きっかけは、健康診断で指摘された体重増加。藁にもすがる思いで、僕は近所の公園を走り始めた。最初は5分走るだけで息が切れ、自分の体力のなさに愕然とした。しかし、無理せず、歩くのを交えながら続けていると、少しずつ走れる距離が伸びていった。変化は、まず心に現れた。朝の澄んだ空気の中を走ると、頭の中のモヤモヤが晴れていく。仕事のストレスや髪への不安でいっぱいだった思考が、リセットされるような感覚。走り終えた後の爽快感と、目標を達成したという小さな成功体験が、僕の自己肯定感を少しずつ育ててくれた。そして、ランニングを始めて三ヶ月が過ぎた頃、僕は髪にも確かな変化を感じ始めた。あれほど悩んでいたシャワー後の抜け毛が、明らかに減っていたのだ。そして、半年が経つ頃には、以前は細く力なく寝てしまっていた髪に、コシとハリが戻り、スタイリングがしやすくなっていることに気づいた。もちろん、髪がフサフサになったわけではない。でも、薄毛の進行が止まり、髪一本一本が元気になったような感覚は、何物にも代えがたい喜びだった。今、僕は週に3回、5キロのランニングを続けている。僕にとってランニングは、もはや単なる薄毛対策ではない。それは、自分を好きになるための、そしてどんな悩みにも前向きに立ち向かうための、大切な習慣であり、最高のパートナーなのだ。髪の悩みはまだある。でも、僕はもう、鏡を見るのが怖くない。
抜け毛に怯えた僕がランニングで自信を取り戻した話