薄毛という、出口の見えないトンネルの中で、僕はもがき苦しんでいた。鏡に映る自分を直視できず、人とのコミュニケーションさえ億劫になっていた。そんな僕が、ただ健康のためにと、半信半疑で始めたランニング。最初は、抜け毛が減り、髪にコシが戻ってきたという、目に見える変化にただただ喜んでいた。しかし、走り続けて数年が経った今、僕がランニングから得た最も大きな贈り物は、髪の毛そのものではなく、もっと深く、かけがえのないものであったことに気づく。それは、「揺るぎない自信」と「物事への向き合い方」の変化だ。走り始めた頃、たった1キロ走るのがやっとだった僕が、今ではハーフマラソンを完走できるようになった。雨の日も、風の日も、自分の足で一歩一歩、前に進み続けたという事実。その地道な努力の積み重ねが、「やればできる」という、何物にも代えがたい成功体験を僕の心に刻み込んでくれた。この自信は、髪の悩みだけでなく、仕事や人間関係における困難に立ち向かう上でも、僕を力強く支えてくれるようになった。また、ランニングは、僕に「結果を焦らない」という知恵を教えてくれた。髪の悩みも、ランニングの記録も、今日明日で劇的に変わるものではない。日々のわずかな変化に一喜一憂するのではなく、長期的な視点で、淡々と、しかし着実に努力を続けることの重要性を、身をもって学んだ。この感覚は、人生のあらゆる側面に通じる、普遍的な真理のように思える。そして何より、ランニングは、僕を外の世界へと連れ出してくれた。季節の移ろいを感じ、風の匂いを嗅ぎ、鳥のさえずりに耳を澄ます。薄毛の悩みで内へ内へと閉じていた僕の意識は、走ることで、再び外の世界の美しさに開かれていった。髪の悩みは、まだ完全になくなったわけではない。でも、今の僕は、それが自分の全てではないことを知っている。ランニングが僕にくれたのは、髪の毛という「結果」だけではない。そこに至るプロセスの中で得た、自信、忍耐力、そして世界と繋がる喜び。それこそが、僕の人生を豊かにしてくれた、最高の宝物なのだ。